インド自転車旅

2024年6月、私は一か月ほどインドを旅しました。その中で、自転車を購入し、共に冒険した出来事を記します。自転車を手に入れてから、予期せぬトラブルや素晴らしい出会いがあり、想像以上に心に残る経験が待っていました。

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インド自転車旅

2024年6月、私は一か月ほどインドを旅しました。その中で、自転車を購入し、共に冒険した出来事を記します。自転車を手に入れてから、予期せぬトラブルや素晴らしい出会いがあり、想像以上に心に残る経験が待っていました。

【旅の動機】

実は以前、レーに行ったことがあり、カルドゥン・ラという峠を自転車で上りました。その時、ゲストハウスの人から「レーからマナリまでの道は険しいけれど、景色が素晴らしい」と聞き、そこで自転車旅を決意しました。レーからマナリまでの自転車道を走破する達成感と、絶景を味わいたいという思いが旅の目的となりました。

【旅の準備】

デリーで自転車を購入することに決めました。日本にグラベルロードバイクを持っていましたが、郵送の費用が高額で、インドで自転車旅を終えた後はバックパックに切り替えたかったため、現地で調達することにしたのです。

デリーで予算は3万円ぐらいで探していました。空港からメトロで3,4駅ほど離れた町で自転車を探していました。3,4件回ってからマウンテンバイクを購入しました。自転車と鍵とベル付きで14000ルピーで購入しました。インドでは珍しく値段の記載がある自転車ショップを見つけました。英語が苦手な自分だとHow much is this?と聞くだけで通常の値段の1.5倍の値段がつけられるのでこの記載はありがたかったです。

自転車を予算以内に調達することが最初の難関だったので、無事に突破することができました。自転車はタクシーで運び、Leh行きのチケットを購入しました。

【Leh到着】

飛行機を降りると酷暑のデリーとは違ってフリースがいるほど寒かったです。それもそのはずでLehは山岳地域で標高が約3650Mもあります。そして次に感じるのは空気の薄さでした。高山病にはなりたくなかったので、深呼吸を心掛けました。

空港から外に出るとそこには異世界のような風景が広がっていました。高い山々がそびえ立ち、その背後には雪をかぶったピークが遠くに見えます。広大な砂漠のような平原には、乾いた大地が広がり、ところどころに緑が点在しています。日差しは強く、空は澄み切っていました。

これらのものを五感で感じた後にここにきてよかったと思いました。しばらくその場で立ち尽くしながら、心の中でガッツポーズしました。そしてこれから始まる冒険へのうれしさと高揚感がこみ上げてきました。

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レーの街並み

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デリーで購入したマウンテンバイク。損傷もなくLehで再開したときは安心した。

【テスト走行】

自転車が手に入ったので、まずは20km離れた寺院(地元ではゴンパと呼ばれています)までテスト走行をすることにしました。行きはほとんど下り坂だったので、順調に自転車をこぐことができました。しかし、帰り道に予想外の問題が発生します。それは、チェーンが頻繁に落ちるということでした。ギアを変えたり坂道でチェーンに負荷がかかったりするとチェーンが外れてしまいます。宿に近づくころには手が真っ黒になり、最終的にはペダルをこぐのをあきらめて、自転車を押して帰る羽目になりました。

調べてみると、チェーンが落ちる原因はスプロケットの緩みでした。しかし、単にネジを締め直すだけでは解決できない事態で、パーツの一部が破損しており、スプロケットを手で触るとガタガタ揺れる状態でした。まだ30km程度しか走っていなかったのに、まさに「インドクオリティー」という感じです(笑)。その後、レーの自転車屋でスプロケットの交換と、必要なキャリアの取り付けを行い、ようやく準備が整いました。

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バックパックもしたかったため、サイドバックは持ってこなかった。バックの上部に取り付けているのはソーラーパネルです。

【いざ出発】

自転車の準備が整ったものの、いざ出発とはいきませんでした。レーからマナリまでの道は約470kmで、その間には5000m級の峠が3つもあります。6月の時期はまだ雪が残っており、気温が-10度近くになることもある厳しい道です。雪解けのシーズンに入ってはいたものの、運悪く雪が降り、除雪作業のために軍による通行規制が行われていました。

観光案内所に確認しても、道路がいつ開通するかは未定で、状況は約4日間続きました。早く出発したい気持ちもありましたが、自分ではどうにもできないので、モーターバイクをレンタルして周辺をツーリングし、少し気を紛らわせることにしました。

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レーマナリハイウェイが封鎖されていた時に、レーよりも奥地にある、ヌブラ渓谷へツーリングにいった。レーへ行ったときは是非ともここへも訪れてほしい。

その後、ある日、車の通行が許可されるという情報を得ました。しかし、自転車が通行できるかどうかは不明でした。レーに来てからすでに10日が経過しており、このまま待っていても時間がもったいないと感じたため、思い切って出発することに決めました。状況は不安定であることは承知していましたが、「交渉すれば何とかなるだろう」と楽観的に考えていたのです。

【Uttamとの出会い】

約10日間滞在したレーをついに出発することにしました。何度もお世話になった自転車屋さんや、よく通ったパン屋に挨拶をして、心温まる人々と別れるのは少し寂しかったです。レーで出会った人々は皆、フレンドリーで親切な心を持っていて、特に印象に残っています。例えば、マナリへの道の情報を役所に確認してくれた人や、私のつたない英語に根気よく耳を傾けてくれたゲストハウスのスタッフ。そんな温かい人たちとの思い出を胸に、いよいよ出発しました。

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ゲストハウスの人たちはいい人ばかりであった。

自転車を漕いで進んでいると、Upshiの近くで検問に遭遇し、警察に自転車を止められました。話を聞くと、現在はタクシーとトラックしか通行できず、車両の通行規制が一日ごとに入れ替わるとのことでした。さらに、二輪車や一般車が通れる時期は未定だということでした。状況が思わしくない中、周りを見ると、自転車に大量の荷物を括りつけた人物が目に入りました。その人物はUttamというインド人で、インド一周を自転車で旅している途中でした。どうやら、彼はネパールから時計回りに旅をしているようでした。

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開門を待つマナリ行のトラックが長蛇の列をなしていた。

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インドを自転車で旅するUttamさん。

自転車旅をしている者同士、すぐに打ち解け、通行可能になるまでの間、一緒に近くの河原でキャンプをすることにしました。彼は冗談好きで陽気な性格で、自転車旅に対して非常に情熱を持っていました。その会話の中で、たくさんのことを学びましたし、川で洗濯をしたり体を洗ったりするという、インドならではの体験もしました。

キャンプをして3日ほど経った頃、警察の情報によると、2週間は自転車の通行ができないということでした。この知らせを聞いた時、正直に言うと、旅の目的が達成できなくなったことにがっかりしました。また、レーで温かく応援してくれていたゲストハウスの人々にも申し訳ない気持ちが湧いてきました。

それでも、旅とは予測できない出来事があるものだと痛感しました。計画通りにいかないことがあっても、それこそが旅の醍醐味であり、予期しない出来事が旅を一層豊かで深いものにしてくれると気持ちを切り替えました。

結局、マナリに向かう道はトラックかタクシーしか通行できないため、トラックの運転手にチップを渡して、自転車を荷台に積んでもらうことにしました。

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インドのトラックは内装も外装もかなり派手です。夜になると内装が光り、イルミネーションのようにきれいになる。

レーからマナリまでの道は予想以上に荒れていました。舗装された部分は少なく、大半は未舗装のガタガタ道でした。道の脇には、トラックの高さを超える雪が残っており、ところどころではトラックがギリギリ通れる幅しかないような場所もありました。それでも、広大な自然と雄大な山々が広がり、ここを自転車で走りたかったという気持ちは強く残りました。

約18時間の長いトラック移動がようやく終わり、夜の10時頃、マナリから50kmほど離れた場所で降ろしてもらいました。車窓から見る景色も印象的でしたが、ようやく下車し、次の目的地に向けて再び歩き出すことができると思うと、ほっとした気持ちでいっぱいでした。

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道の横にはトラックの高さを超える雪の壁があった。

【目的変更 マナリ→シムラ】

マナリに到着した時点で自転車旅を終えるつもりでしたが、まだわずか150kmしか自転車を漕いでいなかったため、目的地を変更してシムラに向かうことにしました。当初はマナリで自転車を手放し、バックパックでの旅に切り替えるつもりでした。しかし、レーからマナリまでの道をトラックで移動したこともあり、そこで出会ったUttamがシムラに向かうと聞いて、急遽彼と一緒に行くことに決めました。

Uttamは非常にユニークで面白い人物で、彼との自転車旅はとても楽しいものでした。道中、必死にペダルを漕ぎいでいると、自然と仲間意識が芽生えてきました。また、途中で立ち寄った地元のキッチンカーやスイカの屋台など、普段一人では見逃してしまうような場所にも彼に案内してもらい、とても楽しいひとときを過ごしました。

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井戸水を使って浴びるシャワーが気持ちい!

Uttam以外の自転車旅をするインド人と3人で自転車を漕ぐこともあった。

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夕食は、プハ(一度炊いた米を平たく押しつぶして乾燥させたライスフレーク)に砂糖を載せて、水をかけて食べるときが多かった。お互いお金に余裕がなかったので、節約したご飯を食べることが多かったが、同じテントの下で食べるプハはおいしかった。

【ダラムサラ】

ウッタムとの楽しい自転車旅を終えたあとは、予定にはなかったもののダラムサラに向かうことに決めました。レーのゲストハウスで出会った人に強く勧められたからです。シムラで自転車を売却するつもりでしたが、売り先の自転車屋が見つからず、そのままダラムサラに持って行くことになりました。

ダラムサラはヒマラヤ山脈のふもとに位置する、美しい町です。標高が高く、周囲の緑豊かな山々に囲まれており、清々しい空気が漂っています。Lehに比べると観光客が比較的少なく、落ち着いた雰囲気があり、私の性格にもぴったりの場所でした。

ダラムサラでは、レーで出会った編集長と再会し、一緒に自転車を漕ぎました。彼とは、レーの自転車屋で修理をしていたときに出会ったのですが、まさかダラムサラでも再会するとは思いもしませんでした。

私たちはMTBで山道を走りました。これまではオンロードしか走ったことがなかったので、この経験はとても新鮮でした。初めて山道を走った感想は、興奮と緊張が入り混じった感じ。最初は地面がガタガタしていてバランスを取るのが大変でしたが、次第にスピード感が出て、爽快感も味わえました。特に下り坂を一気に駆け下りる瞬間は、風を感じながら心が解放されるような感覚があり、とても楽しかったです。この体験は達成感と冒険心を掻き立て、また挑戦したいと思わせてくれました。

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初めてのマウンテンバイクはスリルが満点だった。

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山道を走るのも面白いが、静かで景色がきれいな町を走ることもまた面白い。

旅も終わりに近づき、ダラムサラで自転車を売却しました。売却額は2500ルピー。地元の人たちによれば、少し足元を見られたような感じもあったようですが、私自身は満足できる金額でした。

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自転車は2500ルピーで売却した。これにて自転車旅は終了した。

【旅を終えての振り返り】

自転車旅を終えて振り返ると、思いがけない出会いや経験がたくさんありました。自転車を通じて得た多くの学びや、素晴らしい人々との出会いは、どれもかけがえのない宝物です。最初に抱いていた目的は、結果的に達成できなかったかもしれませんが、そんなことはどうでもよくなるほど、旅の中で感じた楽しさや充実感が大きかったと心から思います。

旅はまさに「点と点の繋がり」であり、偶然の重なりが生んだ奇跡のような出来事ばかりでした。もし、レーからマナリまでの道が閉鎖されていなければUttamとの出会いもなかったし、あの時自転車のトラブルがなければ編集長とも出会うことはなかったでしょう。すべては偶然の中に運命が潜んでいるような気がします。デリーに到着して自転車を選んだ時から運命は決まっていたのかもしれません。

この旅で出会ったすべての人々に感謝しながら、心に残るその瞬間を大切にしたいと思います。どんな小さな出来事でも、それがつながって大きな意味を持つことを教えてくれたこの旅は、私にとって一生忘れられない経験となりました。

この旅で出会ったすべての人々に感謝し、その一瞬一瞬を大切に思います。どんな小さな出来事でも、それが大きな意味を持つことを教えてくれました。この旅を通じて学んだのは、計画通りにいかないことが逆に旅を豊かにしてくれるということ。予期しない出来事が、どれも素晴らしい思い出となり、私の心に深く刻まれました。

自転車という相棒と共に過ごした時間、そして旅を共にした仲間たちとの絆は、私にとって一生忘れられないものとなりました。苦しい時でも、何度も立ち上がり、また進んでいく力を与えてくれたのは、この旅で出会った人々や景色、そして自分自身の成長でした。この経験を胸に、次なる冒険への一歩を踏み出したいと思います。

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